本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第10回です。
司法書士の書類の調査の限界
いくら専門職とはいっても、司法書士にも限界があります。というのも
司法書士は、内部事情は分からないし、書類の真否を知り得る立場にもない。つまり、専門家である司法書士を過度に頼ることはできず、あくまでも、不動産売買におけるリスクは当事者が負うべきである。(司法書士の専門家責任p119)
からです。
少なくとも、そういう心配があるのであれば依頼の段階で言っておくべきだと言えます。なぜなら、あくまでも「物件変動に係る法律関係の当事者ではない(司法書士の専門家責任p114)」私たち司法書士は「依頼者の代理人」でしかないため、深い事情まで入り込むことができかねるのです。
ですが、「一般市民の常識としては、登記業務全般を依頼すれば、本人の意思確認を含めて申請書類の真正についても当然に依頼したと考えるのが通常(司法書士の専門家責任p112)」ですよね。確かにそうだと思います。
もし仮に「申請書類の真正について基本的に責任を負わないということになれば、一般市民の司法書士に対する信頼は失墜(同p)」します。
時と場合による
ですが
すでにY(司法書士)に依頼した経験のあるX(依頼者)が自称Aを伴い、両名がYに対し登記の代理申請を依頼しているのであり、通常このような経緯で受任する司法書士が、自己の依頼者のつれてきた人物の同一性を一から疑うということはあり得ない。(中略)Yは万が一に備えて、運転免許証の提示を求めるほか、自宅の電話番号を尋ねるなどをして自称Aの本人確認を適正におえている(司法書士の専門家責任p113〜一部加筆〜)
というように、客観的に考えても本人であるという状況で疑う余地がなく、その本人を司法書士の職務として最大限できる本人確認等の職務を全うしているのであれば、印鑑証明書などの公文書の細かい真偽までを確かめる義務までは負わなくてもいいということになります。
まとめ
司法書士の依頼者の書類等の真否に関する調査確認の義務があるのは
- 依頼者から特別に真否の確認を委託された場合
- 当該書類が偽造または変造されたものであることが一見して明白である場合
- 依頼の経緯や業務を遂行する過程で知り得た情報と司法書士の有すべき専門的知見に照らして、書類の真否を疑うべき相当な理由が存する場合
(司法書士の専門家責任p115)
上記に当てはまるような場合です。その場合は司法書士は「書類の成立について調査確認して依頼者に報告したり、少なくとも依頼者に対して注意を促すなどの適宜の措置をとる(司法書士の専門家責任p115)」必要があります。
私たち司法書士は「くらしの法律家」として、皆様の権利を擁護するのが使命ではあります(司法書士法第1条)ですが、万能ではないということを知っておいて頂きたく思います。とくに不動産を購入するような場合は特に注意が必要です。慎重な判断が要求されるということを忘れないで下さい!
本日はここまでにしておきます。ありがとうございました。