平成29年度 業務研修会「民事裁判ゼミナール 主張・立証編」2日目【研修ログ】

似顔絵

昨日の研修の後半戦です。

昨日の事例での講義・議論を踏まえて、具体的に陳述書や尋問事項を考察していく講義となっています。具体的なワークも取り入れていきます。

<第5講>主張と証拠の関係

  • 「金銭消費貸借契約書」があれば「金銭交付と返還合意がある」→「金銭消費貸借契約」があったという事実が認められる
  • 「領収書」があれば「履行のための金銭の交付があった」→「弁済」が認定される
  • 「肯定する側のストーリー」と「否定する側のストーリー」が考えられる
  • 原告もしくは被告のどちらかが嘘をついてるということではない→意思の合致があったのかどうかを第三者的に評価できるのかどうかが重要
  • 主張(間接事実に関する事項)は、確実に証明できるとは限らない「仮説」
  • 裁判官の思考の順序→⑴客観的な証拠によって仮説を立てる⑵可能な限り合理的で一貫した仮説を立てる⑶分からないまま保留になる事実は、立証責任を負う側が不利になる⑷客観的証拠に基づく仮説を形成した後、証言や本人供述を検証する→「鳥の目(俯瞰的)」
  • 揺るがない事実からの出発→当事者に争いのない事実、又は信用性の高い証拠で容易に認定できる事実=確実性の高い事実を優先的に利用して、これに主観的な創作を加える(経験則)
  • 主観的証拠の証拠評価上の留意点→⑴観察力や記憶力の信頼性⑵当事者の利害関係⑶視力や視野の個人差⑷思い込み⑸(利害関係の強い)第三者からの誘導
  • 主観的証拠の検証、断効→「意義」⑴自陣の証人・本人の陳述書の作成、主尋問の内容検討→主張の再検証⑵敵性証人・本人の陳述書の受領時、反対尋問の内容検討→反対尋問の攻撃材料「検証方法」客観的証拠、常識や経験則との整合性や合理性を検証。矛盾の指摘(尋問)
  • 日付の供述が必要な場合、前後の行動や同日頃に起こった社会的事件との結びつきを問う→やりすぎはダメ
  • 考えているうちに「不利な情報」が出てしまう→目立たない工夫がする

〈第6講〉主張書面と陳述書Ⅰ

  • 主張書面と陳述書の共通点・類似点→⑴自陣側に有利なストーリー(仮説)を提示する書面⑵裁判官に認定してもらいたい事実を記載する書面
  • 主張書面→⑴要件事実を中心に⑵訴訟物を基礎付ける要件事実を推認する間接事実・補助事実を記載⑶根拠となる証拠の引用(「甲第◯号証」)⑷自陣が求める判決文を当事者目線で述べた書面⑸裁判官を説得する論調で記載する必要あり⑹主張書面に記載した事実でも、証拠がなければ認定されない⑺紛争の全体像が、部分的で細切れになりがち
  • 陳述書みたいな準備書面→段落分けと要件事実との対応関係が不明、書証との対応関係の明示が乏しい、当事者の言い分をそのまま載せている、法的構成が読み取れない
  • 陳述書→合理的な尋問をおこなっていくための、実務的なもの→集中して証拠調べができるように
  • ⑴当該紛争に関して、陳述者(当事者又は関係者)が持っている認識を文章化した書証(供述録取書)⑵紛争発生後に当該訴訟のために当事者名下に作成した報告書面⑶陳述書は、争点との関係が比較的薄い事実も記載することができる(主張書面は要件事実を中心に記載されるのとの比較)→特別なルールがあるわけじゃない⑷「紛争発生後に当事者等の利害関係人が作成する報告文書でえる」性質上、陳述書の証拠能力は高くない※不利益な事実を述べれば、証拠として採用されやすい。※他に書証のない事実だが「揺るがない事実」と整合する事実は、陳述書の記載を根拠に認定されることがある⑸尋問予定の人証の予告機能を持つ→陳述書に沿って尋問が繰り広げられると予測できる⑹争点とそうでない事実との区別をつける
  • 尋問で何を聞くのかを中心に骨組みを組んで、それをものに陳述書を書くといい(尋問時間が無限にあれば、何を聞くのかを書いていくと良い)
  • 陳述書と尋問で考え方や回答がズレた場合→裁判所はそれを意識する。

〈第7講〉主張書面と陳述書Ⅱ

  • 書いていて饒舌になりすぎている場合、その部分から要点を絞って準備書面に書いて、そこを広げるために陳述書を書くと良い
  • 主張書面の作成過程→⑴事情聴取⑵訴訟物の特定⑶訴訟物に対応する要件事実の確認⑷聴取した事実を要件事実に対応するように整理⑸請求の趣旨を特定⑹請求原因を特定→記載すべき関連事実の取捨選択(要件事実との関連性が薄いものを除外)
  • 陳述書の作成(初稿)①事情聴取による方法→主張書面の構成に対応するように作成できるが、主張書面との差異がないものになりがち②当事者本人が作成する方法→当事者が作成する事で、さらに記憶が喚起され主張書面では書ききれなかった細かな事実が立体的に顕れる事がある(書いてもらう事で、当事者の参加意識が芽生える)※重要度に関係ない事が書かれる。整序しづらい原案になる(主語がないなど)関係者の気持ちへの配慮から削除する必要がある
  • 観点・主点を入れてあげると、文章が読みやすくなる→時系列やエピソード別に段落を分けて整理する
  • 内容の整序(事情の知らない第三者に説明をするために)→⑴見出し、項目立て(適切なキーワード)⑵叙述の順序⑶依頼者の思いの記載(陳述書は依頼者が作るもの)→準備書面は意見をいうものではないが陳述書は思いを書くことは許される
  • 要件事実との対応関係が明示される必要はない→ただし内容は、どの要件事実との関連で述べられているかは必要
  • 一つのストーリーとして裁判官に理解できるように整理する。時系列を基本としつつ、紛争の原因から結果にいたる過程を辿る上で、エピソードのまとまりごとに書いていく
  • 陳述書には依頼者の思いや、事件の評価を記載する事ができ、裁判官に直接思いを伝える事ができるツールとして使える
  • 陳述書の記載を鵜呑みにする裁判官はいないが、ストーリーのあるものがあれば、それに乗っかる判決を書きたいというのが、裁判官の性である。(判決を書くヒントにもなる)→書くときに「相手方からどんな陳述書が出るか」という事を想定して書くといい。
  • 双方の陳述書に同趣旨の記載があれば「揺るがない事実」と認定される
  • 「揺るがない事実」との関連性を意識した陳述書を書く
  • 陳述書の類型→①人証予定者の主尋問の予告・一部代替機能を持つ陳述書②尋問を予定していない関係者による事実説明の陳述書(技術的な事項で周辺的な関係事実など)

〈第8講〉総括講義

  • 書証のない事実の立証方法は「陳述書」と「尋問」しかない→本当に裏付ける証拠はがないのかということを検討して、それと陳述書を繋ぐ事が、裏付ける事実を結びつけていく。少し遠い関連性のある事実であっても、書証としてあればつけて、陳述書の内容と結びつけていくことも必要
  • 間接証拠はどこに?→契約関係に基づくトラブル(メールやラインのやりとりなども印刷して書証として出す)
  • 裁判官に伝わらないと意味がないので「方言で表現して、脚注でつける」というのもあり→当事者間のやりとりはリアルに書いた方が良い
  • 本人に書いてもらったものをワープロに起こして、再度確認してもらって押印する運用が良い→本人が言ってるニュアンスや言動に近づける事が良い
  • 脱線しやすい人には「打ち合わせ」をして「その人がいいそうなこと」に合わせて尋問事項を考える→反対尋問で、脱線する人なら「誠実に答えてない」ということになり、むしろ好都合である
  • 裁判は出来るだけ真実を明らかにするもの→「過去に起きたものをそのまま再現できることは不可能」→限界があるので、相対的な事実の中で認めらているルールの中で、
  • 反対尋問は練習できない→出来るだけ色々考えておいて、時間がなくなればそれで良い
  • 主尋問は、練習できるので、綿密に尋問打ち合わせを行う→綿密に作って、依頼者さんに項目をみといてもらって臨む
  • 当事者は基本的に頭が真っ白になる→「その時に思った事をいう」→こちらが思った回答が出ない場合は「尋問者に合わせて」事項を決めて言って、時間通りに終われるように練習する
  • 供述にたいして「勘違いがある」ということに注意する→ほかの客観的な事実との整合性を確認する
  • 不利益な証拠を自ら作出しているような場合は、その事実は認定されやすい
  • 金銭消費貸借契約の返還合意の有無→「金銭交付前後の経緯」「原告被告の関係」「貸付以外の趣旨がうかがえる事情があるか」「原告および被告の合理的な意思」を推認する
  • シンプルな事実を出す→そこから要件事実に当てはめて法的評価をする→最終的な主要事実を認定する
  • 自分の依頼者の陳述に弱い部分を見つけるための方法として活用→無理なく和解に持っていけるように説得することも必要である

まとめ(研修会の自分なりの総括)

この2日間の研修で、陳述書に対する理解がかなり深まった内容だったと感じています。

  • まずは、依頼者(相談者)との信頼関係を構築し、どんな内容でも話すことが出来る人間関係を作ること
  • そこから、細かな事実関係を洗いざらい検討して「要件事実に当てはめるような」法的評価を行う
  • そこから、最終的に自陣が述べたい主要事実(要件事実)を組み立てていく

こういう思考順序で業務に取り組むことが分かりました。そして何より大事なことは「社会通念上、どういう行動や考え方になるのか」ということに気づいていくことで、その為には、様々な事にふれ、学んでいかなくてはならないと言うことも痛感しました。

この「業務研修会」は、裁判業務に躊躇している司法書士の方々に受講してもらいたいと思います。私も昨年から受講して、今年は2回目なのですが「毎年受講したい」と強く思うようになりました。

というわけで、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

この記事を書いた人

岡田 英司

神戸市にある湊川神社の西側で司法書士業務をおこなっております。

業務のこともそうですが、Apple製品、読書、習慣化その他雑多なことも書いていくことで「自分をさらけ出していって、少しでも親近感のある司法書士でありたい」と考えております。

お気軽に読んでいただければ嬉しいです。