本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第20回です。
登記申請代理を「復委任」した場合の責任
最近ではオンライン申請が浸透してきたせいで、あまりこういうことをすることは少なくなってきていますが、一昔前は登記は「当事者出頭主義」であったので、どんなに遠い法務局であったとしても郵送で登記申請するということは許されていませんでした。
なので、遠い管轄の法務局の近くで事務所を構えている司法書士に郵送で送って、その先生に出してきてもらうという方法を取っていました。この時に使われたのが「復委任」という方法です。もともと当事者の依頼を受けて代理人になった司法書士が、別の司法書士を代理人にすることです。
委託を受けた司法書士がさらに他の司法書士に登記事務処理を委託した場合には、復委任(復代理)の関係に立ち、委託を受けた司法書士は、直接本人の代理人として事務処理を行うのであって、委託を受けた司法書士の履行補助者として事務処理を行うものではない(民法第107条第2項)(司法書士の専門家責任p273)
となっていますので、復代理を頼んだ司法書士がミスを犯して当事者に損害が出た場合、委託した司法書士が民事上の責任を取らなければならない状況とは、
不注意で不適任者を選任したり、適切な監督をしなかったことによって、復代理人に過誤があり、本人に損害を与えた場合に限られる。(司法書士の専門家責任p273)
ということになっています。復委任先で事故があったとしても、そこで責任が発生するだけというのが原則です。
「補助者」の業務と責任の所在
この問題も司法書士業界ではホットな話題です。
私は所謂「一人事務所」といって、事務所を一人でやっている(経営している)のですが、司法書士法人や大きい事務所になると、事務員さんを雇って分担して業務を行っています。
従業員を事務所の「補助者」として登録すると、法務局で司法書士しか受け取れない登記識別情報通知書(権利証)をその司法書士の代理として受け取ったり、司法書士が職権で取得請求した戸籍謄本を、代理して受領したりできるようになります。
ベテランの補助者の方は、司法書士よりも実務に精通している傾向があって、事務所としては頼りになる存在になっていきます。ですが、数年前では不動産立会業務を「ベテラン補助者だけ」に関わらせている事案が横行したことがありまして、懲戒事例としてあげられていました。
補助者はどれだけ司法書士業界に精通していたとしても「司法書士」ではないので、単独で業務をさせられません。
だから判例でも
/補助者の過失による事務処理に基づく損害賠償は、直ちに司法書士に賠償責任があるというロジックである。すなわち、補助者の過失=司法書士の過失という捉え方をしているのである。(司法書士の専門家責任p280)
のです。
ですが、この業界では長い間補助者として努めている方々が、いわゆる「番頭さん」となって、事務所で抱えている事件のおおよその段取りと考え方をその人たちが進めていって、本職の先生は何もしないみたいなことは結構往往にしてあるものですが、
例えば、補助者経験が約9年あり、ベテランで十分な能力があると司法書士が考えれば、登記申請手続を一任させても、司法書士倫理17条2項に(補助者による職務の包括処理の禁止)に違反しないというのは、司法書士が資格を有する法律専門職であるというコンセプトを放棄するに等しいと言えないだろうか。(司法書士の専門家責任p283)
と思います。なので、補助者の人が作った申請書には最後に必ず本職の司法書士が目を通す必要があります。事務所で人を雇う時は、こういう注意が必要だということです。
というわけで、本日はここまでにしておきます。ありがとうございました。