本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第11回です。
依頼に応じる義務があるのは何故か?
司法書士は国家資格の一つです。その業務内容は「司法書士法」に定められております。特に「登記申請代理業務」に於いては司法書士に与えられた独占業務であります。
つまり
司法書士法3条1項1号から5号までに定める業務については、正当な事由がある場合でなければ依頼を拒むことができないという義務が課せられている(司法書士の専門家責任p123)
のです。これに違反した場合には100万円以下の罰金に処せられ(司法書士法第75条第1項)懲戒事由に当たります。(同法第47条)
もともと司法書士の「登記業務」は国家から与えられたものです。
そんな
国家から独占業務資格を付与されている者は、公共的役割を担う者であるから、趣味嗜好や気分によって恣意的に、依頼者からの依頼を拒むことはできない。依頼者は、その職層により業務を独占され、その力を借りなければ一定の目的(例えば、不動産登記手続)を達成することができない状態とされながら、恣意的な理由で受任を断られることがあるとすれば、国としてそのような独占業務資格制度を作った意味が乏しくなる(司法書士の専門家責任p124)
のは当然のことです。「診察に従事する医師は、患者から診察・治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならないとされる(医師法19条1項)」(司法書士の専門家責任p125)のと同じことであるという認識を持っていなければならないということです。
ですが、
例外なく依頼に応じなければならないとすると、依頼の内容がすでに受任した事務との関係で行うことが法的または物理的に不可能な場合には困ってしまう(司法書士の専門家責任p124)
ことにもなります。また別に、簡裁訴訟代理等関係業務には、依頼に応じる義務はないとされています。
正当な事由とは
では、この「正当な事由」とはどういうことなんでしょうか?これについては、様々な考え方があります。
まず、法律的に無理な場合(司法書士法第22条等に当てはまる場合)や物理的に業務の遂行が困難な場合(病気や事故など)のみ該当する「形式説」(司法書士の専門家責任p126)です。
これに対し、「『形式説』の事由はもとより、案件の実質に着目して依頼を拒むことを正当化することができる事由も含めるべきである(司法書士の専門家責任p127)」という「実質説」という考え方もあります。
例をあげると、登記申請代理の依頼者が本人確認させてくれないとか、目的の不動産について確認ができないなどがこれに当たるのではないか(司法書士の専門家責任p127を要約)ということです。
本書では全国の約10000人の司法書士によるアンケートが紹介されておりました。約26%の司法書士が受託を拒否したことがあるということです。その理由としては、以下の通りでした。
- 当事者が確認できない状況だった。 1291人
- 当事者本人の言動に不信を感じ信用できなかった。 723人
- 違法または不正な取引の疑いがあったため。 412人
- 当事者の協力が得られなかったから。 247人
- 実態の伴わない架空の登記であったため。 223人
(司法書士の専門家責任p127)
これをみても分かるように、司法書士は「案件の実質に着目して依頼を受けるかどうかを判断しているのであるから、実質説的な考え方に基づく対応」(司法書士の専門家責任p128)をしています。
つまり
司法書士の登記申請代理事務の実態は「代書人時代の申請書・附属書類の作成事務から質的に進化して」きたのであり、「最近は契約成立の段階から関わりを持ち、まさに当事者のパートナーとして当事者にアトバイスを行いながら、その成果として登記代理事務を行う傾向」がみられる
(司法書士の専門家責任p128)
ようになっています。私も出来うる限り対応をさせていただいております。
最近では、何かと本人確認が求められることが増えてきております。「本人確認なんか面倒だなぁ」とは感じているとは思いますが、それに応じないような場合には、司法書士が登記申請代理業務を受けない正当な事由に該当する可能性がありますので、是非本人確認のご協力の方、よろしくお願いいたします。
というわけで、本日はここまでです。有難うございました。