本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第18回です。
専門家に求められる「説明義務」
昨日に引き続きますが、今回は「司法書士の説明義務とは」についてです。
【司法書士業務】司法書士の専門家責任⑰〜登記意思確認義務〜 | ミナトノキズナ〜司法書士 岡田事務所
登記申請に関する説明とは「①登記申請手続それ自体に関する説明・助言義務、②法律上の効果に関する説明・助言義務の類型に分けられ(司法書士の専門家責任p235)」ますが、今回は①に関するところになります。
私は、依頼者から登記申請を代理して手続をするのですが、その時「ただやってもらったらいい」というようなことはやらないようにしています。
- 何故、この書面にサインが必要なのか
- どうして印鑑証明書と実印が必要なのか
- ここに書いてある事柄は,依頼者にとってどういった意味をもつのか
など「依頼者自身に、この手続の意味を知ってもらう必要がある」ということを念頭において説明をしているつもりです。
本書では、
司法書士の説明・助言・教示義務という言い方をした場合でも、善管注意義務と見るべきものと公正誠実職務遂行義務というべき忠実義務と見るべきものとがある(司法書士の専門家責任p237)
といったように「ただ説明したらいい」といったようなことはダメだと言っています。
過去の判例では「形式的処理モデル」が多かったようですが、今の実態にあまり馴染まないと思います。
もし「この不動産の名義を変えて欲しい」という依頼を受けた場合、
実質的処理モデルにおける司法書士の執務としては、対抗関係において委任者の登記に優先する登記申請手続がされていることを速やかに調査し、その旨通知・説明し、場合によっては善後措置の助言をすることが要請される(司法書士の専門家責任p239)
されています。
費用の立替を司法書士がどこまでできるのか
あと、登記を申請するためには必ず「登録免許税」というものを納めなくてはなりませんが、場合によってはかなりの高額になることがあります。その場合、司法書士としてどういったことを考えておく必要があるのでしょうか?
司法書士と依頼者との間の契約は「委任契約(民法第643条)」です。ですので、受任者〜つまり依頼を受けた私たち司法書士〜には「費用前払請求権(同第649条)」があります。
第六百四十九条 委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
なので、司法書士は仮に登記申請の依頼を受けた時に特段の取り決めをしていなかったとしても、
受任者は費用の立替払を避けたい場合委任者に対し民法第649条の費用前払請求権を行使することができる。
(中略)委任者による費用前払義務の履行が受任者の事務処理を完了させる義務の履行に対して先履行の関係(先にやっておかないといけないこと)に立つから、委任者がこの特約に反しまた費用前払請求を受けたのにもかかわらず費用を受任者に交付しないときは、受任者において費用の交付されるまでの間暫時受任義務の処理を中止しても違法性や有責性を帯びるものでもない(司法書士の専門家責任p242)
という取り扱いになっているので「費用を入れてくれないと、登記しません」と言われても費用を入れなかった場合、手続きが止まってしまっても文句を言うことが基本的にはできないということになります。
ですが、ここで注意事項としては、きっちり「何のお金なのか」ということを司法書士に説明を求めることです。あと、依頼者が費用を納めた場合は迅速に登記手続を進めなくてはなりませんので、なんの連絡もない場合も、こちらからしっかりツッコミを入れる必要があります。また費用前払請求を司法書士がしなかった場合には、立替てでも登記手続きを進めることが義務となっています。
まとめ
司法書士としては、登記手続をするにあたって、ある程度の関わりを持っておく必要があるとはいっても、万能ではないというのは今までのとおりです。
ですが、
司法書士は、登記関係費用の支払いがなくても登記申請手続きを進められるが、書類が整わなければ手続を進められない(司法書士の専門家責任p250)
のです。「こんな書類をもってきてください」と司法書士から頼まれているのであれば、それにきっちりと応じないと登記手続きは永久に進まないということです。ですが、
実質的に処理モデルにおいては、委任者が書類の持参を怠っている場合であっても、委任者が不動産取引等に対する知識に乏しい時には、説明・助言義務を負う(司法書士の専門家責任p250)
ので、不明な点がありましたら、どんな些細なことでもいいですので、きっちりと司法書士に説明を求めたほうがいいということですね。
というわけで、本日はここまでにしておきます。ありがとうございました。