本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第5回です。
高度な責任が求められます
最近の傾向として、決して多いとは言えませんが、
詐欺的な不動産売買により被害を受けた当事者が、騙した相手方とともに、登記申請代理において不手際があった司法書士を被告にして損害賠償請求をするケースは増加傾向にある。(司法書士の専門家責任p50)
と言えます。これは、司法書士が求められる注意義務(善管注意義務)の内容が、
依頼者の指示どおりに執務すれば足りるというものではなく、嘱託の趣旨にそって、登記の専門家として備えていてしかるべき知識・情報・経験・技能に基づき適切な裁量をもって、公正かつ誠実に登記申請にかかる事務を行うべきであり、必要とあらば登記必要書類の真否・登記申請意思の存否等について相応の手段・方法による調査・確認、さらには依頼者に対して適宜な説明・指示・助言などをするべきものである。(司法書士の専門家責任p51)
となっているからです。かなり厳しくなってきています。従来は「形式的処理モデル(司法書士の専門家責任p53)」ーつまりは「書類さえ揃っていたら、後はシャンシャンで終わりましょう」という感じでもよかったのですが、最近ではそういった形式を逆手に利用して司法書士もろとも騙す手口が横行してきたのです。ですので「実質的処理モデル(司法書士の専門家責任p53)」ー前述の通り「様々なことについて、本当に存在するのかを、これでもかと確認していく」ことが必要とされる時代なのです。
依頼者の方の中には「何でそんなことまで調べてたりせんとあかんの?ええやん、登記簿こうなってるんやからええやん」と言われたりするかもしれませんが、これは専門家が代理業として関わるという以上は、やらなくてはいけない職務上の義務であります。
ただ裏を返せば、「司法書士に任せられればここまで確認をするので間違いはほぼ起こらない」ということも出来ますので、事故が起こる確率はぐんと減らすことができます。
書類の保管には神経を使います
また、司法書士として依頼を受ける時、様々な書類の取り扱いをします。
例えば、不動産を売却する事による名義の書き換えをする時には「権利証」「印鑑証明書」など、相当重要な書類を預かります。預かるということは、返却をする義務を追うのは当然であるとして「返してください」と言われて、いつでもホイホイ返していいものなのでしょうか?
例えば、不動産売買において司法書士は売主と買主の双方から代理を受けることができます。これは、私たちが「相対する双方から代理を受ける」ということが判例上認められているからです。ですが、これは諸刃の剣でもあります。
売主から預かる権利証。これが無ければ登記申請できません。それを急に「返せ」と言われて簡単に応じてしまったら、買主にとっては所有権の登記ができないことになってしまいます。
つまり、
登記義務者(売主)と司法書士の間の委任契約が登記権利者(買主)の利益をも目的としているところに着目し、相互に強い関連性を有する(司法書士の専門家責任p57)
いわば、別個の代理ではなく「双方のために」動かなければならないのです。ですから勝手に書類を返還はせずに、返す前には相手方の同意をとらなければいけないということになります。
私の場合は、こういったリスクがあることを依頼者様には説明し、基本的には使う直前まで書類の原本を当事務所でお預かりすることはありません。手元にそう言った書面(権利証など)があれば、ご自身で考え直す時間も出てきますから。こういった「意思の存否(本当にこれでいいのか)」を見つめ直せることもメリットだと思います。
というわけで、書類を司法書士を始めそういった方々にお預けする際には、こういった事を背景にしているんだということを思っていただければと思います。
本日はここまでです。ありがとうございました。