【司法書士業務】司法書士の専門家責任⑭〜不動産取引における司法書士の立会いと弁護士の立会い〜

本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第14回です。

何が求められる?

求められるものとは...
求められるものとは…

第13回目のレビューでは、司法書士の立会いに求められる注意義務の重さについて書きました。つまり、「司法書士が立会いを依頼された場合には、どのような趣旨で立会いを求めるのかについて、依頼者に明示的に意思を確認することが相当(司法書士の専門家責任p165)」なのです。登記手続にだけ立会いをするのか、不動産の売買契約の段階から立ち会うのかについては、依頼者様が司法書士に求めているものに左右されると言ってもいいかと思います。

依頼者は、司法書士に契約の成立に立ち会ってもらうことにより、実体的権利の移転を円滑かつ実効的なものにすることを期待し、契約の履行に立ち会ってもらうことにより、代金の決済を円滑かつ実効的なものにすることを意図するのである。(司法書士の専門家責任p165)

と本書でも指摘されています。司法書士の立会いは「(所有権移転)登記手続を代理することを前提として」その不動産取引の立会いを依頼されることがほとんどです。ただ、「法的な助言を行うことは『法律事務』(弁護士法第72条)に当たると解される(司法書士の専門家責任p165)」ことがあります。では、弁護士が不動産の立会いをする場合と司法書士がする場合とで、求められるものの違いがあるのでしょうか?

弁護士の立会いに関する責任論について、本書で取り上げられた判例がいくつかありました。

昭和60年の判例では、弁護士の立会いの意味合いとして、

      

  • 契約締結の立会人の役割は、後日契約締結の事実を証明するための証拠となること
  •   

  • 立会人が弁護士であっても、立会人としての本質に変わりはない。
  •    

    1. 契約当事者の代理人あるいは仲介人とは異なる。
    2. 制約の相手方当事者との交渉や契約の目的でもある権利関係の帰属・内容、契約当事者の権限の有無等を自ら調査する義務はない。
    3.    

      

  • 付随的に、契約内容につき法律上の観点から適切な指導、助言をすることが期待される。

司法書士の専門家責任p171)

ということでした。

また平成7年の判例で、弁護士に対する損害賠償が認められた基準として

  1. 弁護士が法律事務に関して代理人を受任し、第三者と法律事務をするに当たっては、依頼者本人の意思に基づくものであるか充分に確認すべき注意義務がある。
  2. 弁護士としては、売買が実在するのかどうかを、自ら直接本人に電話するなどして、確認するほか、保険証や権利証、印鑑証明などで本人であることを充分に確認すべき業務上の注意義務がある。
  3. 弁護士が上記2のような慎重な対応をしていれば、本件売買(無権利者による売買契約)
    について売主の承諾がなく、替え玉であったことにも気づくことができたはずであるが、そうした注意義務を怠ったことには過失が認められる。
  4. 司法書士の専門家責任p177より抜粋及び要約)

とされました。

「司法書士の立会い」と「弁護士の立会い」との違い

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本書では、

弁護士の立会いには、契約が問題なく成立した事実を証明するために締結現場に同席するという趣旨の契約締結の立会人というケースがあるのに対して、司法書士の立会いは、登記申請代理の受任とは離れて、単に事実の証明のために立ち会うことは原則としてはないと解される。司法書士の専門家責任p179)

となっています。また(不動産取引以外の)契約の立会いを弁護士に頼むのは、

弁護士のもつ高い社会的地位に注目し、後日契約締結過程に問題があったときに、その証言が高い価値を持つことを期待しているものなので、そこでは「弁護士としての職務行為は予定されておらず」ただ契約締結過程を見守ること、さらには契約締結の当事者(立会依頼をした者の相手方当事者)にいわばにらみをきかせることが期待されている(司法書士の専門家責任p179)

からです。司法書士の不動産の立会いに求められるものと、ずいぶん違いますね。

まとめ

まとめてみます!
まとめてみます!

基本的に、私たち法律家といわれる職業は、依頼者から特別にお願いをされないかぎりは、何かをやると言う訳ではありません。悪い言い方をするならば「アドバイスはできるけど、依頼者から頼まれない限り何もできない」ということです。

「弁護士に頼んどけば大丈夫!白黒なんでもつけてくれるから」みたいなことはありません。但し、弁護士に立会を頼めば、前述のとおり、契約があったことについては証明できると思いますし、不動産以外の契約であるならば、十分の役割を果たせているのかもしれません。

ただ、こと「不動産登記(不動産の名義の書き換え)」に関しては、登記申請を最後までやり遂げなくては安心はできません。司法書士の立会業務は、ただの「見届け役」ではないのです。

そのために、司法書士は事前に出来るだけ調査をし、契約当事者に対し本人確認を慎重に行っています。登記手続を代理することを前提とする不動産取引の立会いというのは、弁護士の立会いよりも、もしかしたら責任は重いのかもしれません。

司法書士は「登記制度を守っていく」という使命も背負っているからこそで、それを地道に実行することで皆様の「(不動産に関する)権利を擁護する」役割を果たしているんだということになるのだと思います。

本日は、ここまでです。ありがとうございました。

この記事を書いた人

岡田 英司

神戸市にある湊川神社の西側で司法書士業務をおこなっております。

業務のこともそうですが、Apple製品、読書、習慣化その他雑多なことも書いていくことで「自分をさらけ出していって、少しでも親近感のある司法書士でありたい」と考えております。

お気軽に読んでいただければ嬉しいです。