本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第6回です。
基本的には利害の対立はないのですが….
前回のレビューで「登記義務者と登記権利者との双方から登記申請手続の委任を受けた場合において、登記義務者から登記関係の書類の返還を求められたときには、登記権利者の同意を得る必要がある」(司法書士の専門家責任p59)というような内容を書きました。こういう注意義務が要求されるのは、双方が対立する事も稀にあるので「双方の事を考えながら行動をしていかなくてはならない」司法書士の使命の一つであると私は考えています。
ですが
そもそも登記申請代理は、登記権利者と登記義務者双方の意向を受けて行われるものであり、円滑に執務が遂行されるのが通常であり、登記権利者と登記義務者の利害対立が顕在化することは少ない。そうしたことから、登記申請代理においては双方代理が許されてきたのである。(司法書士の専門家責任p59)
と言われています。昔からの裁判例でも、この主張は変わっておりません。
双方代理はなぜダメか
民法第108条にはこう書かれています。
同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。(民法第108条 – Wikibooks)
例えばAが売主でBが買主だとすると、Aの代理人がXであれば、Bの代理人にXはなれません。こうしてしまうと「Aの事を考えるとBの事がおろそかになりますし」又その逆も然りです。つまり「代理人はもっぱら本人の利益のために行動する義務がある(忠実義務)が、このような場合には、定型的に、忠実義務が全うされない危険がある」(司法書士の専門家責任p60)からなんです。
司法書士が双方代理をする事ができる理由
ですが例外も認めていて民法108条但書きには①債務を履行する場合②本人が許諾している場合であれば、双方代理を認めています。これを司法書士が関わる「登記申請手続代理業」に当てはめられているのです。
なぜなのでしょうか。それは
①登記申請行為は、国家機関に対していっていない様の登記を要求する公法上の行為であって、民法上の法律行為ではなく、また、②すでに効力を発生した権利変動につき法定の公示を申請する行為であり、登記義務者にとっては義務の履行すぎず、登記申請が代理人によってなされる場合にも代理人の申請によって新たな利害関係が創造されるものではないというところにある。(司法書士の専門家責任p61〜一部修飾)
からなのです。すなわち「確実に権利がうつっているとなったことについては、後は単なる届け出なのだから(登記手続を行うという「義務の履行」にあたる)サラッとさせてやってもいいでしょう」という事になっています。いわば「登記申請代理は、比喩的にいえば、登記権利者と登記義務者の双方から『ありがとうございました』と感謝される業務」(司法書士の専門家責任p63)だと本書では行っています。
仮に対立するような事があったのなら
それでも対立する事があるような場合には、司法書士は専門家の責任として説明する義務を負います。なぜなら、「登記申請代理の依頼者、とりわけ不動産業者でない者は、司法書士が申請どおりの登記ができるか調査し、できそうにない場合には善後措置を指示してくれるものと考えても不合理とはいえない。(中略)司法書士としては、登記義務者と登記権利者との利害対立を洞察し、適切な対応」(司法書士の専門家責任p71)を取らなければならないからです。
私は、こういった手間を惜しまない業務を心がけて、皆様のお役に立てる様に、日々邁進していきたいと思っております。
というわけで、本日はここまでです。有難うございました。