【司法書士業務】司法書士の専門家責任㉕〜司法書士をめぐるその他の問題(エピローグ)〜

本日は「司法書士の専門家責任」のレビュー第25回です。本日で最終回となります。

公正証書にかかる事務

公正証書は大事なんですけど...
公正証書は大事なんですけど…

最後に扱われている実例として「公正証書作成にかかる事務を依頼された場合における事実確認・調査義務の問題、守秘義務の問題(司法書士の専門家責任p359)」があります。
私たちが関わるものとして多いのが「公正証書遺言」ですが、そのほかにも関わりがあります。

依頼者から公正証書の作成嘱託の依頼を受けた場合は、

①法令違反の存在や法律行為の無効等の疑いが生じた場合はもとより、②当該委任事務処理およびそれ以前の事務処理の過程で知った事情等から法令違反の存在等に疑いが生じた場合においても、債権者等に必要な説明を求めるなどして、違法な公正証書の作成嘱託をしないようにする義務がある。(司法書士の専門家責任p363)

とされています。なぜなら「司法書士が法律専門職であり、その職責からして疑念性がある場合には調査・確認義務が発生すると考え、司法書士の専門家責任を肯定している司法書士の専門家責任p363より抜粋)」からです。

ただ、そういった義務が発生しているとはいっても、

司法書士に対し一般的に事実調査および法律判断の義務を課すためには、司法書士が一般的に専門的能力を備えていることが与件となるが、司法書士は、法律上業務が限定されており司法書士法3条)これまでは、登記手続など司法書士特有の専門分野以外の分野において一般的な法律判断をすることは想定されていなかったし、弁護士と比べて、資格試験、研修等の制度において大きな差異がある司法書士の専門家責任p364)

ので、業務範囲を超えた法律判断になってしまった場合、弁護士と同じ責任を課していいのかは疑問があります。
だからといって、

司法書士に簡裁訴訟代理権が付与され、関連する法律送電も業務として許容されるようになった現在においては、認定司法書士でなくとも、法律専門職としての職責から、一般論としてこうした注意義務が生じ得るとみることが相当であろう。司法書士の専門家責任p364)

と本書では言っています。

最後に、平成9年に出された判例(H9.9.4民集51巻8号3718P)では、

公証人は、法律行為についての公正証書を作成するに当たり、聴取した陳述により知り得た事実など自ら実際に経験した事実及び当該嘱託と関連する過去の職務執行の過程において実際に経験した事実を資料として審査すれば足り、その結果、法律行為の法令違反、無効及び無能力による取消し等の事由が存在することについて具体的な疑いが生じた場合に限って、嘱託人などの関係人に対して必要な説明を促すなどの積極的な調査をすべき義務を負う(司法書士の専門家責任p365)

と判断されています。前々から書いたとおり、「公証人は書式上の法律間違いはないにしても、(内容については)絶対に間違っていないとは限らない」ということを司法書士として肝に銘じておかなくてはなりません。
【司法書士業務】公正証書遺言とは | ミナトノキズナ〜司法書士 岡田事務所
以前のエントリーです。参考にどうぞ

専門家責任と司法書士の諸相

専門家だからといって「難しい言葉」を使うだけでは能がない!
専門家だからといって「難しい言葉」を使うだけでは能がない!

いよいよラストになります。

本書において一貫していたのは、

司法書士の専門家責任の基本は、利用者である国民の期待に的確に応えていくことのできる力量を備えることであり、そのパフォーマンスにおいて、裁判例に見られる規範論および自らに課した職務倫理を拳拳服膺(人の教えや言葉などを、心にしっかりと留めて決して忘れないこと。四字熟語辞典 – goo辞書)すべきであるというものである(司法書士の専門家責任p372)

ということでした。

私たち司法書士は「法律専門家」として、重要な「プロフェッション」としての役割があります。

「プロフェッション」とは

学識に裏付けられ、それ自身一定の基礎理論を持った特種な技能を、特種な教育または訓練によって習得し、それに基づいて不特定多数の市民の中から任意提示された個々の依頼者の具体的要求に応じて具体的奉仕活動を行い、よって社会全体の利益のために尽くす職業(司法書士の専門家責任p376)

と定義されています。

すなわち

  • 高度の専門知識と技能を備えていること。
  • 高い職業倫理が要請されていること。
  • 職能団体の教育訓練による後継者の自力育成
  • p375)

なのです。だからこそ「研修が重要視されている理由」があるわけですね。

司法書士を始めとする「法律家」とは

人と人との関係、人と社会との関係の問題に対して、依頼者の希望に可能な限り沿う、あるべき解決方法を提示・実現することにより、社会的秩序をもたらす専門家である(司法書士の専門家責任p375)

わけですから、人の役に立ち、困った人を助けることができ、社会の役に立つのです。
また「司法書士の執務の体系・専門家責任の構造は、弁護士の執務の体系・専門家責任の構造と基本的に同じ(司法書士の専門家責任p385)」である以上は、より高度な専門知識と職務倫理が求められているのです。

「見識なき司法書士は事件屋に等しい」「技能なき司法書士は素人よりこわい」
司法書士の専門家責任p385)

こうならないようにしないといけません!

エンディング

また、次に向かって...
また、次に向かって…

というわけで、長きにわたって一冊の本をレビューしながら、自分のためのアウトプットをしていくという壮大な企画が本日でとりあえず、終了しました。

専門書レビューは続けていきたいと考えております。その時はまたお付き合いいただきたく思います。本日はここまでです。ありがとうございました。

この記事を書いた人

岡田 英司

神戸市にある湊川神社の西側で司法書士業務をおこなっております。

業務のこともそうですが、Apple製品、読書、習慣化その他雑多なことも書いていくことで「自分をさらけ出していって、少しでも親近感のある司法書士でありたい」と考えております。

お気軽に読んでいただければ嬉しいです。